細部まで自分の手で丁寧に。
磨き上げた技がきらめく刺繍の世界。

金糸銀糸装飾刺繍
石川稔(いしかわ太鼓台刺繍工房)

香川県の中西讃地域を中心に独特の発展を遂げてきた太鼓台(「ちょうさ」とも言う)。そこに欠かせないのが豪華絢爛で重厚な金糸銀糸装飾刺繍。きらびやかなレリーフ状の龍虎は動き出しそうな迫力で観客の視線を奪う。伝統工芸士・石川稔さんは、昔ながらの手法で太鼓台を手がける数少ない職人の一人。盛り上げた綿を押さえつけるように金糸を掛けて縫い留める作業は、高い集中力と体力も必要だ。

手間暇かかる刺繍を受け継ぐ難しさ。

元々は着物の絵師をしていました。祭り好きが高じて、太鼓台の刺繍を始めて40年ぐらい。来年は80歳。新しいのを作るのは辞めて、傷んだものの修繕だけでもいいかなと思っています。もう針の穴だって見えません。若い人が継ぐといっても、生活が成り立たないと無理です。根気もいる。刺繍はものすごい手間と時間がかかるけど稼げるわけではない。本当の伝統工芸はなくなっていくんじゃないかと思います。

全てが特注品。自分の手で作ることにこだわって。

道具も材料も自分で用意します。糸は既製品ではなく、芯糸に金や銀の細いフィルムを巻きつけた特注品。縫い針は自転車のスポークを加工して、目玉のガラスも特注です。下絵も自分で描くし、刺繍だけでなく太鼓台のパーツ品を作って組み立てるところまでやります。今時はウレタンフォームを入れる作り方もありますが、時間かかっても綿をちゃんと入れて、ちゃんと丁寧に刺繍することにはこだわっています。「へんこつ(讃岐弁で頑固者)」なので気に入ったものができないと売らないです。

世界に認められる刺繍の技術。

仕事は楽しくない。でも長く続けられている。それはなぜかと言ったら、やっぱり出来上がった時の達成感があるからですよ。自分で何でもしますから。太鼓台を作るとなるとお客さんから預かる金額も大きい。責任感を持って仕事しないといけません。過去には舞台美術をしたりオブジェを作ったりもしていました。世界各国で巡回展示されたこともありますし、私自身もある会社から呼ばれて、長年定期的に海外に通って現地の職人に技術指導をしていました。

香川県独自の形態に発展した太鼓台は、専用の道具と独自の表現が結集した特殊な世界だ。石川さんは、着物の絵付けで得た日本的な表現力をベースに、ほとんど独学で刺繍の技術を完成させている。立ち上がるような迫力ある立体表現や、見る角度によって輝きの変わる縫い手法。とても一口で伝えきれない奥深いその技は、広く世界をも魅了している。


いしかわ太鼓台刺繍工房
〒769-1617 観音寺市大野原町大字大野原2115-1
TEL 0875-27-6247

香川で生まれるもの:つくるひと